お金で買える「大切なもの」はいとも簡単に失うんだ。例えばそれが拘って建てた家だったとしても。
現実を前にした時「家ってこんなに綺麗になくなるんだ」そう思ったと言います。その光景を私は自分の目で見たことはないけれど、テレビで報道された多くの映像に紐付いてほぼ相違ない状況は想像できました。
そしてそれに続いて聞かせてもらった言葉のほうに私は強く心を打たれました。
それでも目の前には綺麗な海が広がり、山の輪郭は昔のまま残っていて、そのことに感謝すら覚え海を恨む気にはならなかったと。家をも奪っていったけれどそれでも生まれ故郷の海が好きなのだと。
東京に暮らしていると、殺気立った満員電車に乗り、身を粉にして仕事をし、高額を注ぎ込んだ目に見える幸せに希望を重ねて生きているけれど、本当に大切なのは形にし難いものの方で、それってむしろ東京では手に入りにくいもの。そして心の中にあるそれこそがあの津波にだって負けない強さを持つもの。
家を失ってもそれまでの記憶は今も鮮明で、匂いさえも思い出せるという。そして家だけでなく全てを無くしても心さえあれば人は生きていける事を学んだと。
7年前の津波で実家を失った本人の話に返せる言葉が私の乏しい経験の中には見あたりませんでしたが、そこに自身の感情を入れて来た彼女の故郷愛はこれまで聞いた他の誰よりもリアルで説得力があり、日々小さな事にも躓きがちな私の心に強く残るものでした。
「お金で手に入るものなど本当に大切と呼ぶには程遠く、ましてそれを手に入れるお金のために人生を捧げるなんて勿体ない」
その通りだと思いました。