先日、ひょんな事から ”吉野家の牛丼”
の話が出た。男ならともかく女性はあまりあの手の店には行かないと思うが、私には遠い昔、その1杯に忘れられない思い出があった。
学生だった私には新聞奨学生の友人がいて、専門学校に通いながら新聞を配り、通信教育で大学の勉強もして、不器用だが真面目でとても頑張り屋の彼は私がいる寮の部屋に毎日のように遊びに来た。ただ、寝不足には敵わず、専門学校の授業中は私の隣で寝ている事が多かった。
私にしても彼にしてもクラスの中では指折りに貧乏学生を気取っていたと思う。私は1日の食費は200円で賄っていて、彼はどさくさにまみれ寮生の食事を
”ただで” 食べていた事もあった。多分私以上に経済的に苦しかったんだと思う。そんな彼が、「君にはお世話になっているから」
と私にご馳走してくれたのが当時一杯400円の吉野家の牛丼だった。
私は彼に特別何かをしてあげていた記憶は無いが、店のカウンターで 「大盛り」
を注文してくれて、出てきたどんぶりを見て 「これで大盛りですか?」
とケチをつけていたところを見ると、多分彼にとっても始めて食べた吉野屋だったのだと思う。
あれから十数年、彼は今、私より先に二児の父親になっている。そんな彼が今何をしていて、これから何をしていくのか、私はそこに心配は無い。あの頃を思えばずっと裕福な暮らしが出来ていると思うからだ。
ただ、いつの日か、今度は私から ”吉野家の牛丼”
をご馳走したいとだけ考えている。 |