目覚めの悪い金曜日の朝。タクシーに荷物を載せる。目的地でタクシーを降りる...。そして事件はこの時始まった。
1日の仕事は最近では随分あっけなく過ぎていき、コンピューターの画面から離れて外に出ればもうとっくに日が暮れていて、静岡駅新幹線口でタクシーを下車...。第六感が働くには少しタイミングが遅い気がしたがようやくこの時点で重大な失敗に気付く。朝乗ったタクシーのトランクには一週間分の荷物を詰めた私のキャリーバッグが載っている。
領収証を貰っていなかったからタクシー会社の名前は分からないし、まずこういう場合は何をすべきなのかすぐに思い浮かばない。とりあえず、全く関係が無いと思いつつ、今降りたばかりのタクシー会社なら連絡先が分かったので電話してみることにした。
話を聞けば、そういったタクシー会社不明の忘れ物を探す手段として、代表のタクシー会社に連絡しておくと全ての会社に情報が伝わるような連絡網があるらしい。気休め程度に用件は伝えたが私は今日中に東京へ帰らねばならない。いつか連絡が来るだろう...などと悠長な事は言っていられない。
仕方が無いので静岡駅付近のタクシー会社総当たりで電話を掛けるべく近くの交番に飛び込んでタクシー会社のリストを出してもらった。この時点で静岡駅付近のタクシー会社の数は21社もあることが判明。個人タクシーも入れると途方もない数になる。半ば諦めた表情で呆然と立ち尽くしていると、私よりもお巡りさんのほうがてきぱきと機転をきかせ警察への届け出の有無を本庁経由で検索、私も負けじと続けざまに電話を掛ける。
3、4件の電話を掛けていたところ私の携帯電話に着信アリ。電話帳の始めに載っていて一番最初に連絡したアサヒ交通から荷物発見との知らせ。私の電話を聞いて、無線で全車に検索を掛けたという。ありがとうございます。
駅からタクシー会社までは往復5,000円弱、勿論利用したのはアサヒ交通だ。私からの気持ちばかりのチップすら受け取らなかった釣り好きの運転手さんとは、家に釣竿を忘れて海に行くなど、お互いの失敗談で終始笑い話が絶えなかった。 |