Simply mini J

1日5分、その日の自分を振り返る時間を作りなさい。
    昔そんな話をお坊さんから聞いた。

映像制作にはなぜフィルムが好まれるのか

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All Photo by inos

仕事関係の方と、フィルムとデジタルについて少し話題になりました。実はこの話になると映像業界では凄く奥が深くなります。単にその二つを比較しようにもそれが写真なのか映画のようなムービーなのかで話は変わってきますし、TV-CMのようにフィルムで撮るがビデオで仕上げるという場合もあります。今回はそれら全てをひっくるめての総論なので到底答えにはたどり着きません。

私も映像編集を本職として生きてきましたから、映画、テレビドラマ、CM、音楽PVなど様々なコンテンツ制作に携わり、勿論、アナログビデオ、デジタルビデオ、フィルムを扱ってきたわけですが、やっぱりプロの映像制作の現場というのは今でもフィルムに対する憧れが強いですね。これは理屈では無くて、同じ現場をフィルムとビデオで撮影した映像を並べてしまうと、フィルムの表現力豊かな、言ってしまえば現実より派手に見える過剰に作られた仕上がりの画に対して、ビデオは良くも悪くも現実的で生っぽい画。解像度とかシャープネスとかいう見方をすればビデオの方が輪郭がはっきりするのだけれど面白味に欠ける...そんな印象があります。だから映画とかドラマとかPVとかCMとか、作り込む事で世界を表現するコンテンツには非現実的な仕上がりが望めるフィルムの方がマッチングが良いんですね。

しかし映画業界で言えば今や上映の多くがデジタルプロジェクターになっています。それでも撮影はフィルムだったりするのが面白いところ。結局デジタルにしてしまうなら始めからデジタルで撮れば良いじゃないか!と思われがちですが、やっぱりフィルムの光や色に対する反応というのは独特で、テレシネと言って、フィルムからデジタルデータに変換する過程で色調整の幅が広いんですね。それってデジタルにしてからカラーコレクションで調整したのでは到底調整出来ないような柔軟性があります。ですから商品をより美しく見せたいCM業界ではフィルムで撮るのが当たり前なわけです。最近はビデオ撮影も少しづつ増えてきて、ソニーのハンディカムのCMやシャープのエアコンのCMはビデオですね。

今後、ビデオカメラの世界は大型イメージャー化がますます進み数を増やすと思われますが、同じ大型イメージャーを搭載するカメラであってもハイエンドコンテンツ制作用に関してはRAW記録が必須になると予想しています。フィルム撮影→テレシネの過程を踏まなければ表現出来なかったルックを、RAWからの現像によって近いものにする、デジタルインターミディエートの可能性を更に広める方向です。場合によってはRAWならではのHDR合成も生きてくると思います。ビデオ素材からフィルムのルックを作り出すためのフィルター系エフェクトのクオリティも最近ではかなりのものですし。

ただ、そこまでフィルムの良さを知りつつもどうしてデジタル化に移行して行くのか?それは時代の流れという事もありますが、一番の理由はやはりコンテンツ制作に掛けられる予算の問題ですね。ネット社会になってからというもの制作すべき映像コンテンツ数が増えた反面、制作費は年々下がっていますから、デジタルに比べ10倍近くも経費を必要とするフィルム撮影は本当にお金が掛けられる現場でしか使えなくなっているのが現状です。制作ツールに掛けられる予算も急激に減少し、10万円そこそこの編集ソフトがデファクトスタンダードとなるのも当然なのだと思います。

一方、写真の世界は逆ですね。何が逆かと申しますと、ムービーはなるべくフィルムで撮ってデジタルで仕上げるのに対し、写真は、撮りに関してはデジタル化がどんどん進みますが、仕上げはフィルムの印画紙に焼き付ける...。そんな拘りがあったりします。そちらについてはまた今度。

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