Simply mini J

1日5分、その日の自分を振り返る時間を作りなさい。
    昔そんな話をお坊さんから聞いた。

ラウドネスは本当に必要か?

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地上波デジタルへの切り替えで液晶テレビに皆が飛びついたのはもう過去の事...。日本はブームが来れば良い意味で流されるので、地デジへの切り替えは想像以上に上手くいったのではないでしょうか。私のような天の邪鬼は未だに20年近く前のブラウン管テレビを使っております。やっぱりブラウン管は映像処理等の小細工に限度がありますから、生に近い映像が見れて安心感があるのです。有機EL、もしくはそれに匹敵する応答性をもったテレビが世に出てきたら私も買い換えるつもりです。我が家はケーブルテレビで見ていますから2015までは地デジ化への有余があるのです。

ところでこの地デジ化、映像が綺麗だったり、各種付加情報が見れたりと、至れり尽くせりですが、こと映像制作サイドからすると少し厄介な部分もあって、その一つが今月からOA基準の1つとして取り入れられたラウドネス対応です。テレビを見ている視聴者の方がチャンネルを変えるたびに聴こえてくる音の大きさがバラバラだったり、CMに入ると急に音が大きくなったりするのを、統一規格を作って、そこで許容する範囲にレベルをそろえてOAしましょうというものですね。

音のレベルという意味では、これまでもピークメーターやVUメーターといった測定器で ”瞬時値” に関してある程度計測していたわけですが、ラウドネスメーターはこれまでとは根本的に計測方法が異なるので、実際のところ放送局や映像制作会社の間で未だにその測定法やレベルの修正法は手探り状態です。ラウドネスにはいくつかの計測項目がありますが、一番重要視されるのはOAするプログラム全体の平均値である Integrated。国内の場合ARIB TR- B32規格においてターゲットラウドネス値-24LKFSの±1dB以内に収める事とされていますから、編集あがりやMAあがりの完パケを計測してこの値に収まっていなければ何らかの修正を行わなくてはならないわけですね。

私が心配するのはここからです。難しい話しはさておき、平均値を一定の範囲に収めなければならないという事は、低ければ上げて、高ければ下げるという事です。例えばそれがバラエティ番組のように番組全体で平均的にレベルが高い場合なら全体的に下げるような対処で良いと思います。しかし映画のようにダイナミックレンジの広い番組の場合、全体的にはレベルが低いのだけれど悪魔が襲ってくるシーンだけは凄く高いというケースでは、当然平均値は低いわけですから全体的に上げる必要が出てきます。ところが全体的に上げてしまうと、もともと高めに設定されていた箇所は高くなりすぎてしまいますからその部分だけは加減する事になるでしょう。すると結局、演出上ダイナミックレンジを広く取る事が狙いだったのに、OAの規格に制限されて伸び伸びとした表現が出来なくなってくるケースも考えられるという事です。例えが悪いかもしれませんが、CDの音圧戦争が、何でもかんでもぎりぎりまで音を大きくしてしまった結果、ダイナミックレンジの狭いつまらない音になってしまったように、テレビもそうならなければ良いけれど...。

勿論、ラウドネスの規格の中には演出上の例外として確か-29LKFS以上であれば許容するような決まりもあったと思うのですが、結局-29から-24の間を自由に設定してしまっていたら、ラウドネスという新しい規格の存在意義が薄れる気がします。

まだまだ国内では始まったばかりの規格ですから、良いとも悪いとも言えないのですが、確かにテレビを見ている視聴者の方が違和感なくチャンネルを変えられるのは良い事だと思います。もし興味のある方は音のレベル差に注意してこれからのテレビをご覧になられてはいかがでしょうか。おそらく前よりは聞きやすくなっていると思います。同時に制作陣の皆さんは限られた調整範囲の中でどれだけ演出意図に合致した作品が作れるか腕の見せ所です。

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