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1日5分、その日の自分を振り返る時間を作りなさい。
    昔そんな話をお坊さんから聞いた。

「ソール・ライターの原点 ニューヨークの色」を見に行く(2)

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All Photo by inos

ソールライター写真展の告知はこんなところにも。渋谷駅からヒカリエに続くコンコースにはこのようなポスターがありました。行き交う人々の多くは気にも留めず通り過ぎて行きましたが、熱狂的なファンであればこのポスターを欲しいと思う人もいそうですね。

確かグッズ販売でもこのサイズのポスターはなかったと思いますから尚更。

今回の写真展は一般的な額装展示だけでなく、ライトボックスによるポジフィルムスライド展示も行われました。昨日も書きましたがソールライターはカラー写真も有名ですからデジタルに移行する前はポジフィルムが主なメディアだったはず。

スマートフォンやパソコン画面で写真を見るのが日常となった現代にこのような展示はデジタルにはない光の美を再認識するきっかけとなりました。

ポジフィルム(リバーサルフィルム)のラチチュード(再現可能露光範囲)は5段程度だったと記憶しており、ネガフィルムの約10段の半分です。そして適正露出を中心に±0.5段程度の露光で撮影をしないと期待する結果が得られない難しいフィルムです。ネガフィルムであれば現像やプリント時にある程度露出補正が出来ますが、ポジフィルムは後段処理でいじることがほぼ出来ないという都合があります。

ちなみに最新デジタルカメラのダイナミックレンジが14段や15段ありRAW撮影においては後処理の調整幅が驚くほど広い事を考えると、いかにデジタルが作品作りを容易にしているかが理解できます。

ライトボックスで照らされたポジフィルムは他の何にも変え難い美しさがあります。透過光で色を表示するという意味では液晶ディスプレイだってほぼ同じ原理ではありますが、この存在感には至りません。

勿論サイズという観点で言えば液晶の圧倒的勝利となるのでしょうが、当時このライカ版35mmフィルムというサイズは写真のスタンダードでありそれは数十年が経過した今もまた。そう言えばソールライターが35mm以上のフィルムサイズ、例えば4×5、6×6、8×10を使っていたという話は聞いたことがありませんね。ファッション誌の撮影をしていたのなら少なからずその辺りのサイズも使っていそうなものですが。

今回の展示でいちばんの注目はこれだったかもしれません。10台のプロジェクターによる大規模プロジェクション展示。カラー写真約250点と言われる作品の数々を、それぞれのカテゴリー別にスライド投影。会場で唯一腰掛けられるエリアですからここでゆっくり時間を過ごす人も多かったようです。あまりに長居する若い女の子はスタッフから注意を受けていましたが...。

プロジェクションに限らず、今回のイベントではこれまで公開されてきたソールライターの代表作だけでなく、未公開作品が多く展示されていたのが印象的でした。そして会場内は全て写真撮影が許可されていた(ビデオ撮影を除く)点も、さすが海外の写真家さんのイベントだけあるな!という感じ。日本国内でも近年は写真撮影が許可されたイベントは増えてきましたけどね、少なくとも入り口で手荷物検査は減ったでしょうか。

おかげで展示作品の数々を思い思いの観点で撮影する人が多かったです。その姿もまた、「ああこの人はこういう作品に興味があるんだ」と人間観察には面白く。

未公開写真の多くが展示されたという意味で今回発見があったのがこれらの作品。ソールライターの代表作の一つとして「黄色いタクシーの前を歩く窓ガラス越しの男性」がありますが、これまではその写真単体で展示されていたため、まさかそれが定点撮影の1コマだったとは思っていませんでした。今回前後の作品群が連続的に展示されたことでその事実を知ることとなったわけです。

“写真は物の見方を教えてくれる、すべてのものが美しいということも。”

ソールライターが残している代表的な言葉。私自身もまさにその通りだと感じます。人に「写真を撮るのが好きだ」と伝えると、「だったらあそこに行ったらいい景色が撮れるよ」とか「ここが写真スポットらしいよ」とか教えてくれたりするのですが、写真を撮るという行為はそんなふうに絵葉書みたいな結果を残したい時ばかりではないんですよね。

カメラを持ち歩くことで、いつも見ている景色の中に普段とは違う視点を探したり、変化を感じたり、何でもないようなものに疑問や面白さを見出したり、それらを形に残してみようと思うきっかけ探し、それこそがカメラを持つ醍醐味だと考えます。

世の中には形に残すためのテクニックを解説する情報は溢れていますが、そこに辿り着く以前に身の回りの些細な物事の変化や美を感じる観察眼の持ち方を説明した解説書はあまり見たことがありません。誰でも写真が簡単に撮れる時代に写真家の仕事は写真を撮ることではなくどこに視点を置くか、それに尽きると思います。人と同じような視点ならいずれAIがいとも簡単に実現するでしょう。

人が撮る事の価値はAIが真似できないような着眼点。この写真展はそれに気づく情報の宝庫だったと思います。

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