「写真が趣味です」とか「好きです」と言う人と話をする時、「どんな写真家さんが好きなの？」とか「好きな写真集は？」と聞いて答えが返ってくる事はごく稀です。それが良いとか悪いとか言う事ではなく、写真を使った表現の自由が著名な写真家だけの物ではなくなったのだと理解しています。

オートマチックの車が今何速ギアで走っているかを気にしなくていいように、カメラも絞りやシャッター速度の関係を知らなくてもアイデアさえあれば形に出来る時代なのです。

フィルム撮影の楽しさを語り始めると私も徐々に古い人間になりつつある事を実感しますが、半歩譲ってそれがデジタルだったとしても、スナップ写真を撮る楽しさ、見る楽しさは、他の何にも換えがたいものがあります。

あ、あの人達はあのまま歩いてくれば丁度このあたりでこっちから歩いていく人と交差するだろうな！とか、二人の歩調がぴったりだ！とか、池を覗き込んでいる人がいるけれど次に噴水が勢い良く吹き上がったらきっとびっくりするだろうな！とか。そんな偶然とわずかな未来の予想にかけて予め露出を決定しておく．．．。

そんなふうに撮られた写真にはいくつものヒントが隠されていて、見るというより読み取るといったほうが正しいような面白さがあります。