Simply mini J

1日5分、その日の自分を振り返る時間を作りなさい。
    昔そんな話をお坊さんから聞いた。

もはや「嘘っぱち」と言われそうな

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All Photo by inos

少し前のエントリーで紹介したSONY RX1による天体撮影に関してご質問を頂きましたので、この場でご紹介させて頂ければと思います。私もデジタルカメラによる天体撮影はまだまだアマチュアですから何も偉そうな事は言えませんけど、後処理の工夫に関してはある程度専門ですので何かの参考になればと思います。

天体撮影を行う上で一番大事なのは ”暗い場所へ行く事” です。暗いといっても周囲が暗いのは勿論の事、空に人口光の無い場所という意味です。富士山山頂に気象観測所があるというのもうなずけますね。それでも地平線が入るような浅い角度のアングルで撮影すれば遠い街の人口光はカブルと思いますけど。長時間露光をする事で人の目には見えないような明るさの星まで写るという事は、肉眼でうっすらでも明るさが確認出来るレベルだと撮れる写真はグレーになります。そういう意味では海に囲まれた離れ小島で撮るのが最高なんでしょうね。でも現実はそうもいきませんから出来るだけ標高の高い空気の澄んだ場所を選ぶと良いのだと思います。空気が澄んでいるという事は人口光が空気に反射しにくくなりますから光の影響も最小限に留められます。ですから私はいつも野辺山まで足を伸ばすというわけです。

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とは言え光の影響は多少受けますから、ISO1600、SS63秒、F2.0で撮影するとオリジナル画像はこれくらいの仕上がりになります(上写真)。本当はもっと黒い部分が締まってくれると良いのですが全体的にグレーっぽくなっていますね。世の中には人口光の波長をカットする光学フィルターが存在しますからそれらを使う事でもう少し程度は軽くなるのかもしれませんが、私もそこまでは今のところ試せていません。使う頻度を考えると恐ろしくコストパフォーマンスが悪いのと、光の屈折率の関係か望遠レンズもしくはレンズ交換式カメラのセンサー手前に取り付ける前提の設計のため恐らくRX1には適さないのかと...。

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さて、ならばここからはデジタルならではの利便性を活かして、後処理で何とかしようと考えてみます。後処理が前提の撮影ですから当然RAWで記録、センサーが被写体をしっかり捕らえていなければ後処理でもどうにもなりませんから多少白カブリしてもオーバーめで撮影しておく事。一番最初に紹介したくらいのカブリ方が適当かと。

私は日常的にAdobe Lightroomを現像ソフトとして使用していますのでここではこれを使いますが、他の現像ソフトでも大抵搭載されている機能ですから同様の操作で同じような結果が得られるはずです。

まずは白カブリした星以外の部分を本来の黒として引き締めるためにトーンカーブを使って調整します。上のスクリーンショットの黄色い枠の中ですね。左下が黒、右上が白、横軸が入力、縦軸が出力ですから、ゆるやかなS字のカーブを描くようにポイントをいくつか打って結果を見ながら調整します。

S字にするという事は暗いところはより暗く、明るいところはより明るくなりますから結果的にコントラストの強い画像になります。それなら始めからコントラストというスライダーを動かせば良いのではないか? と突っ込まれそうですが、コントラストスライダーは50%グレーを中心に画像全体の明るさをリニアに広げたり縮めたりして明暗差を付けるのに対し、トーンカーブは任意の明るさに対し曲線的に調整が出来るため、天体写真の場合は天の川とバックの黒との境界を調整する...なんて作業に向いています。

ただしカーブの中に沢山のポイントを打ったり極端な調整は厳禁で、いかになだらかな曲線に出来るかが仕上がりの善し悪しを左右します。上の例ではカーブの中に4つの調整ポイントを打っていますが、私としてはこんな事は稀で、通常は2ポイントでS字のカーブを描きます。

ここで豆知識ですが、フィルムで写真を撮っている(いた)方ならご存じかもしれませんが、フィルムで天体を撮るとデジタルよりもコントラストの高い写真になります。それはフィルムはデジタルと違い化学(ばけがく)の世界なので、デジタルのように光に対してリニアには反応せず、ある程度の光量がないと感光しないのです。そして一旦感光し始めると光の量に対して一気に反応を示し、やがていくら光を当てても殆ど反応しなくなります。つまりトーンカーブに例えたら始めからS字のカーブのように反応しているということです。

天体撮影に限らず、デジタル写真から色を抜いてモノクロにしてみたけれどどうもフィルムのような重厚感が出ない...と思われる方も多いと思いますが、実はそういったからくりがあるのです。そんな方も上の例のようにトーンカーブをS字にしてみてください。それだけでもフィルムに近いモノトーンが出来るはずです。

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少し話がそれましたが、トーンカーブの調整だけでもだいぶコントラストの高い、黒の引き締まった画像になったと思います。でもせっかくなのでもう少し手を加えてみます。天体撮影をした事がある方ならご存知かと思いますが、長時間露光になればなるほど沢山の星が写り、明るい星と暗い星の差が少なくなって、結果的に何が写っているのか良く分からなくなります。肉眼ではオリオン座がすぐに見つけられても、写真に撮ってしまうとその中からオリオン座を探すのは結構大変(ちょっとオーバーな表現ですが)です。

明るい星はある程度感光するとデジタルの表現域の上限に達してしまいそれ以上明るくならず、暗い星は長時間露光する事でどんどん明るくなりますから両者の差が小さくなるという事ですね。1等星は1等星のまま、3等星は1等星に、6等星は3等星くらいに写るって事ですね。

ですから天体写真を撮る人の中にはレンズにソフトフィルターを装着してわざと全体をぼんやりぼかして(正確には拡散して)撮影している人もいますね。強い光ほど拡散しやすいですから明るい星ほど大きく写るというわけです。なるほど考えましたね。

しかし私はそのようなフィルターは使わず(持っておらず)、これもある程度後処理で何とかしています。上の作例のように先ほどのトーンカーブはそのままに、そのすぐ上にある「明瞭度」というスライダーを調節します。これはシャープネスとコントラストを同時に動かしたような効果が期待でき、天体写真の場合はスライダーを左に動かすと明瞭度が下がり、明るい星と暗い星の区別がつきやすく全体的に柔らかい仕上がりになります。逆に言うと星の数は減ったようにも見えます。星雲や天の川はこういった方向性の方が感じやすいかもしれませんね。

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一方、同じスライダーを極端に右方向に振ると、暗い星から明るい星まで、撮影時に捕らえた星は隅々まで浮き出てきます。ここまで行くとちょっと ”えげつなさ” を感じますね。スライダーをいじっている時は見えないものが見れた気がして感動するのですが、仕上がった画を後から見直すと不自然さは否めませんね。撮影直後のオリジナル画像と見比べるともはや別物ですからね。

今回は説明上分かりやすくするためにどれも極端なパラメーター設定にしていますが、実際は程々の値で落ち着かせます。他にもトーンカーブはそのままに黒レベルだけオフセットしたり、レンズの色収差を減らして不要な色を消したりと細かい事をしています。

RAW現像って色々な事が出来ますから普段のスナップ撮影でも重宝していますが、天体撮影ほど効果を感じるものは無いですね。殆ど整形手術の領域とでも言いましょうか...。こんな表現怒られますかね。

※ これらの画像はスマートフォン等の小さな画面では確認しづらいかもしれません。高解像度PCモニターでの閲覧を推奨します。

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