Simply mini J

1日5分、その日の自分を振り返る時間を作りなさい。
    昔そんな話をお坊さんから聞いた。

写真から、初めて本物の風景を見てみたいと思った日

By
All Photo by inos

風景写真に興味があったわけではありません。どちらかというと目の前の出来事を写し止めるような ”動きのあるストリートスナップ” が私は好きです。それだって風景と言われればそうかもしれませんが、所謂ネイチャーフォトのような ”絵葉書になるような写真” を真剣に撮るタイプではないという意味です。

それでもこの写真展に足を運んだのは、私の趣味の写真ライフにさえ影響を与えるようないくつかのキーワードをこの写真家さんは世に残してくれていたからに他ならず、もっと知りたいという気持ちと、その信念から生まれた作品とはいったいどんなものなのかこの目で見てみたかったのです。

アンセルアダムス写真展。主催してくれた富士フィルムさんには大変感謝です。

アンセルアダムスは20世紀にアメリカで活躍した最も著名な写真家の一人。画像の鮮鋭性に写真の価値を置くストレートフォトグラフィを探求する ”グループf/64” の結成メンバー。f/64は大判カメラでパンフォーカス撮影を実現する最小絞り値に因んで名付けられているそうで、その値から逆算するに当時のフィルム感度で全てをシャープに写すにはそれなりの長時間露光が必要だったと想像出来ます。

アンセルアダムスがメインで使っていたのは8×10(20cm×25cm)フィルムで、今回の展示では本人によるコンタクトプリントが多かったです。70年以上前の作品にも関わらず流石に8×10ネガサイズからのプリントは驚くほど豊富な階調で表現されており、息を飲むとは正にこの事かと思いましたね。ヨセミテ公園の写真は誰もが知る彼の代表作ですが、数年前にAppleのMac OSの標準壁紙だった同ヨセミテ写真とは大違いで、今さらながらデジタルはフィルムを超えられていないのではないか?そんな事を考えてしまいました。

勿論、アンセルアダムスは全てがアナログな製作工程ながら独自の技法 ”ゾーンシステム” を生み出した人でもあるので、現代のデジタルプロセスにも似た緻密な計算から実現している結果であり、それこそが今回私が足を運ぶ理由の一つでした。

ゾーンシステムは被写体に対する写真の露出からネガの濃度、プリントまでをトータルに数値化する理論で、今で言うところのトータルワークフローであり、撮影段階から既に後処理の事までを考えた逆算法で露出の決定をしている...そんな感じだと思います。

ゾーンシステムに興味があった以上に、私の中では座右の銘のように心に強く刻まれている言葉があり、それがこの ”ネガは楽譜であり、プリントは演奏である” というものです。私の中でアンセルアダムスといったらこの言葉の生みの親!というくらいの存在でした。正直、写真は真剣に見た事が無かったけれどこの言葉だけは知っていた...みたいな。

現代写真にも通ずる、仕上りまでのプロセスの全てをこの一言で見事に言い表していて大好きなフレーズです。

楽譜というのは誰が見ても同じだけれど、演奏というのは実際に奏でる人によって全員違う。写真も全く同じで、撮影まではあくまで楽譜作りで、それをどう演奏するかが表現に繋がっていくわけですが、写真業界がフィルムからデジタルになってからというものJPEG神話みたいなところを訴える声もあって、カメラで撮ったままがニュートラル!というか、後処理でいじるのは邪道!みたいに考える人が未だに多く、そこの議論が始まるとお互いなかなか納得のいく答えにたどり着かない傾向はデジタルにRAWの文化が浸透した頃から変わらずです。

しかしそれをアンセルは70年前にズバリこの一言で言い表している。

また、今回興味深かったのは、展示作品の中に2枚だけ少しコントラストが低く非常に軟調に表現されていた作品があり、聞けばそれらはポラロイドのタイプ55のシートネガから印画紙に焼き付ける手法を用いたらしく、他の作品に見る超高精細ハイコントラストな作品の良さとはまた違った表現に繋がっていて、それはそれで良かったですね。

ネイチャーフォトの写真展は沢山ありますが、ヨセミテ公園に実際に足を運び本物を見てみたいと思わされた写真展はこれが初めてでした。

※ 尚本写真展は撮影禁止となっており、撮影が許可されているのは最初に掲載した1枚のみです。

コメントを残す

*
*
* (公開されません)