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    昔そんな話をお坊さんから聞いた。

NHK技研公開 2019

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All Photo by inos

年に一度公開されるNHK技術研究所。今年もこの時期がやってきました。渋谷の放送センターではなく用賀にあるこちらは研究ばかりしている施設。

初めてここに来るとあまりに立派な施設が目に飛び込んできて、思わず「受信料はこんなところに使われているのか...」と複雑な気持ちになる人も少なくないはず。繰り返しますが放送センターはこれとは別にありますから。

NHKと言っても番組ばかり作っているわけではなく次世代映像のあり方について多面的に研究を進めています。技研公開で最初に踏み入れる1Fのこのエリアにはその年のフューチャーテクノロジーが展示されており、”オープンハウスを漠然と見てくる” なら印象に残りやすい内容になっています。

今回は将来的なメディア技術として3Dテレビ、VR、ARに対する取り組みについてプレゼンテーションがありました。VR、ARに関してはヘッドマウントディスプレイの進化次第で今後我々の生活にどう入ってくるのか気になるところです。特殊な眼鏡やゴーグルをつけるという行為にどこか抵抗があってか、今現在はゲーム業界などに限定されたデバイスという印象が強いですが、もしかすると今後はテレビなど見ない時代が来て、スマホと連携するゴーグルが当たり前になるのでしょうか。

ここでは一人一人ゴーグルを装着するのではなく4Kプロジェクター8台をブレンディングして180度の円筒スクリーンに高精細VR映像を投影していました。3台の8Kカメラを放射状に並べて撮影した素材をスティッチングすることで高解像度の180度映像を実現し没入感と臨場感を実現。編集はDavinci ResolveというところがNHKと言えど庶民的でした。

平日だというのにあちこちの展示で順番待ちの列が出来ておりました。”視点に追従するインテグラル3D映像” と題したこちらの展示は、コンテンツの撮影が禁止されていたため場の雰囲気を伝えるだけのこんな引き画しか撮れませんでした。

簡単に説明するとこちらの展示は近年多くのテクノロジー展などでおなじみとなってきた裸眼3Dを使ったデバイス展示ですが、単に立体で見れるというだけでなく、視点に追従しますから、画面を右側から眺めれば被写体の右側が立体的に見え、左側から眺めれば被写体の左側が見えるというように、画面と視聴者の位置関係によって最適な3D映像を見ることが出来る技術。つまるところ3Dの被写体を視聴者が回り込んで見られるというわけ。

原理としては画面を眺めている視聴者の顔を顔認識技術で位置情報を割り出し、画面に対して右側にいると認識したら表示コンテンツを右側から見たものに切り替え、左にいると認識したら左側のコンテンツに切り替える...それをシームレスにやってのけるので見ている人は確かに被写体を回り込むように見ることが出来る。

ただこの技法は3DCGによるコンテンツであれば実用化はそれほど難しくなさそうですが、実写映像の場合は難易度がかなり上がりますね。単なるステレオスコピックの撮影では情報量が少なすぎますから、回り込む想定で左右の立体映像も撮影するとなると...。

1Fの見学が終わり地下に潜り込むと、展示は少しディープな内容にシフトしてきます。家族で来たら子供達はだんだん飽きてくる頃じゃないかと。この辺の展示は実際に映像制作に携わる技術者が本音トークを交わすエリア。

毎年恒例ですが、相変わらずNHKさんは超薄型有機ELパネルテレビを展示していますね。8K OLEDで100インチくらいで薄さ5mm程度。これが現実的なお値段でご家庭に導入できるなら究極のスペース効率ですが、そもそもNHKブランドのテレビって売ってませんよね?というツッコミは抜きで...。じゃあその技術いつ活かされるんだよ!ってな気もします。

今回展示されていたテレビのパネルはガラス製でしたが目指しているのはフレキシブル素材の薄型だそうで、平面以外の場所にも映像表示の実現を目指しているという目標はここ数年ぶれていないですね。フレキシブル素材となると湿度の関係で急に寿命が短くなるはずですが...NHKさん。たぶんその辺りが課題なんだろうなと。この1/4サイズで良いので実用化を期待したいところです。

今回の展示で個人的に興味深かったのがこちらの ”次世代撮像デバイス技術” コーナー。

大勢の人が群がる後ろから説明パネルを見た瞬間に「ん、面白そうな展示だ」と思いましたね。なぜならそこに書かれていた内容はカメラ用センサーで唯一無二のSIGMA Foveonセンサーと同様の図式だったから。

世の中はカメラもモニターも高解像度化が進み、ご家庭のテレビでさえ今では4K時代、8Kともなればこれまでのハイビジョンの16倍の解像度。逆にいうと同じサイズのセンサーを用いたカメラは単純計算で1画素あたりこれまでの1/16の光しか受光できなくなるわけですから、センサーの高感度かが望まれるわけです。ですが現在主流のベイヤー配列のカラーフィルターを使った単板センサーはRGB単色で見たときには隣り合う画素の光を受光できませんから感度的には効率的とは言えません。

そこで映像業界ではRGBを単色センサーとして独立させプリズムで分光を行う3板方式が今でも注目されるわけですが、その場合物理的にプリズムブロックの分だけカメラが大きくなってしまうという欠点がありました。

一方でレンズメーカーで有名なSIGMAはFoveonブランドでRGB3層構造のセンサーを世に送り出しています。ベイヤー配列ではなくR、G、B独立した3枚のセンサーを1枚に重ねた積層構造ですから単板センサーとスペース効率も変わりませんし、原理的に3色全てがフル画素センサーとして機能しますから理想的な構造と言えます。ただ一つFoveonには致命的な欠点があって、それは暗所に弱いこと。つまり非常に低感度。理由は簡単で積層構造の中を光が透過する際に減衰が大きく下のレイヤーまで効率よく光を送り込むことが出来ないんですね。私も個人的にFoveonセンサーを使っていた頃はISO感度が100と200しか使えず随分苦労した記憶があります。

そこで今回NHKさんが開発している新型センサーというわけです。前置きが長かったですか...。今回展示されていたセンサーは構造的にはFoveon同様にRGBの3層構造。トップがBでボトムがRというのも光の波長から逆算した結果でありFoveonとも共通。

しかし使用している素材が違いました。一般的なシリコンではなく有機膜と透明のTFT回路。これによって計算上は一般的なベイヤーセンサー相当の感度を実現しているらしいです。早い話が高感度Foveonの誕生!と考えると夢が膨らみます。が、これまた一般視聴者の手には届かないNHK内部の技術ですから、できればSIGMAさんがこれを実現してくれていれば今頃映像・写真業界で話題になっていたでしょうに。

視聴者にとって一番現実的な展示はこちらで行われていました。厳密には視聴者ではなく地上波デジタル放送に携わる民放各局を含めた映像制作者にとってというのが正しいですが、結果的に視聴者に直結する部分でもあります。

こちらは現在の地上波放送で4Kや8K放送を実現するための符号化技術です。せっかく4Kテレビを買ったのに放送が始まったのはBSやCSだけで、地上波はいつまでたってもHDのままじゃないか!とお怒りの人も多いんじゃないかと思うのですが、地上波放送で4K・8Kを実現するには物理的な大きな課題がありまして、それは絶対的に電波の帯域幅が足りず、4Kのデータ量を地上波の電波に載せる事ができない点にあります。だから今のままではいつまでたっても地上波4K放送は始まらない...。電波の帯域幅は総務省で決められており近い将来ワイドバンドに広がる予定も今のところありません。

じゃあ方法は一つしかないでしょ!って事でNHKが実験を繰り返しているのが、4Kや8Kの情報量を減らせばいいじゃないか!という考え。つまり符号化(エンコード)技術という事ですね。どうにかこうにか今のHDなみに情報量を減らすことができれば地上波で4K・8Kが見られるというわけです。

で、上の写真の ”次世代映像符号化方式VVC” というコーナーで映像が流れていました。現在実運用では使われなくなった東京タワーから実験的に電波を飛ばし、8K放送をこちらで受信してその映像クオリティを確認できました。

展示内容は2つあり、1つはライブ中継、もう1つは高画質伝送。なぜ2つの展示が別れていたかというと、やはり符号化でデータ量をコンパクトにするにはそれなりの時間がかかり、高画質を要求すれば1秒分の映像を符号化するのに約1分(つまり実時間の60倍)が必要となるためライブ中継は現実的ではなく、処理速度を優先させれば画質を落とすこととなりそもそもの高解像度放送の意味がなくなってくる...という事で今はこの間にいる...という事のよう。

まあNHKさんなので何としても4Kではなく8Kを実現しようと考えるので余計厳しいわけですけどね。早く地上波で4K放送を実現したいところです。

その他NHKさんらしくHD、4K、8Kの画質の違いなどを一般の方にもわかるよう実際に3台のカメラを並べて画質比較をしたり、8K120Pのスローモーションとか、なるべく難しい話にならないよう工夫した展示が並んでいました。技研公開は明後日6月3日(日)まで行われていますのでご興味のある方はぜひ。

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